音ー「おと」と「ね」ーどう違うの?
お母様を通して、こんな質問をされました。漢字の問題で「笛の音(ね)」という問題を見たときのこと。生徒さんが、
「笛は『ね』だけれど、ピアノだと『おと』って読むのはなんで?」と質問されたそうです。「違いってありますか?」と聞かれました。
現代では、明確な使い分けはありません。どちらで読んでも間違いではないのです。ただし、遠い昔、日本人は、自然の音や虫などの生物の声、小さな音、心地のいい音、楽器や人の泣き声などには「ね」を使い、鐘などの大きな音や心地がいいわけではない音には「おと」を使っていました。枕草子で「虫の音(ね)」や「風の音(ね)」という表現がありますよね。これに従うと、ピアノも「ピアノの音(ね)」でもいいと思うのです。「ピアノの音色(ねいろ)」とは言いますし。でも、個人差があるとは思いますが、しっくりくるのは「ピアノの音(おと)」かもしれません。ピアノは1800年代に日本に持ち込まれたものですから、この頃には「おと」と「ね」の区別もあいまいだったのかもしれませんし、初めてあの大きな音を聞いた日本人は今まである日本の楽器からでる音との違いに驚き、「おと」だと感じたのかもしれませんね。
小説などを読むと作家さんは、場面、情景、心情に合わせて「おと」と「ね」を巧みに使い分けられています。平家物語では鐘の音を「おと」でも「ね」でもなく「声」と表現しています。こういったところに日本人の細やかな感性が感じられ、日本人っていいな~と思います。このことと関連しておもしろい研究報告があります。東京医科歯科大学の角田忠信名誉教授の「日本人の音意識」についての研究です。(http://www.seas.or.jp/news/library/tsunoda.html)西洋では虫の声を不気味な場面で使うそうです。西洋人にとって自然の音や生物の声は心地のいいものではないそうです。一方日本人は自然の音や生物の声に趣を感じますよね。これには音を処理する脳が違うということが関係しているのです。
以前、『日本人の脳 脳の働きと東西の文化』(大修館書店 )や『日本語人の脳: 理性・感性・情動、時間と大地の科学』(言叢社)の本を読んだことがありますが、興味のある方は読まれてみるとおもしろいかもしれません。
話は戻りますが、冒頭の生徒さんのような質問ができる子はとてもおもしろい! 楽しみ! 次々と物事を関連付けて考える下地がある証拠です。もし、お子様がこのような疑問をもたれたら、思いっきり褒めてあげてください。そして、一緒に調べたり考えたり、わからなければどんどん先生に質問してください。