読解力は語彙力不足を補えることがあるんです
長文を読んで答える問題の中には、語句問題も出てきます。たとえば、「子どもたちが楽しそうに遊ぶ。そんな姿を老人は( )を細めて、うれしそうに眺めていた。」という文章について。
①( )に当てはまる体の部分を表す言葉を漢字一字で答えなさい。
答え(目)
②( )に当てはまる言葉と同じ言葉を用いる慣用句を次から一つ選び、記号で答えなさい。
ア ( )をかける【ひいきにする】 イ ( )にかける【自慢する】
ウ ( )が出る【予算をこえる】 エ ( )を出す【余計なことを言う】
答え (ア)
この場合、①は読解力と語彙力の問題。②は語彙力の問題になります。
①を解くためには、老人がうれしそうであることを押さえなければなりません。また、「目を細める」という慣用句が「うれしそうにほほえみをうかべる」という意味であることを知っていなければいけません。②は、「目」が当てはまる慣用句を知っていなければなりません。
この例を見ると、語彙力は必要なことがわかると思います。しかし、読解力は語彙力不足を補える場合が多々あります。中学受験で言葉の意味を問う場合、難関校ほど辞書通りの意味を問う傾向は低くなります。それよりも文脈の中でどう使われているかが問われます。辞書通りの意味だけでなく、また辞書にある複数の意味の中から状況に即して意味を理解できているかを見るのです。
たとえば、「そこは整然とした部屋だった。すべてが一定の法則にしたがって整理され、美しい空間が維持されていた。ところが、突然の訪問者がやってきた。その訪問者により、そこはまったくの無秩序の世界へと変化させられた。……」という文章について。(私の創作文ですが)
①「整然」と反対の状態を表す言葉を文章中からさがし、一語で書きぬきなさい。答え(無秩序)
「無秩序」という言葉。小4、5ぐらいだと知らない生徒さんは多いでしょう。小6でもわからない生徒さんはいます。しかし、この設問、「無秩序」の意味がわからなくても答えを導き出せるのです。「整然とした部屋だった」のが、「変化させられた」という流れを理解できていれば、整然とした状態が変化したのですから、どう変化したのかをおさえればいいのです。この点を押さえれば答えることができるのです。文脈を正確に押さえて読み取ることができるなら、語彙力不足でも問題によっては読解力でカバーできるのです。
国語の問題は、読解力を問う問題、語彙力を問う問題、漢字力を問う問題、文法力を問う問題、表現力を問う問題に大きく分けることができますが、これらは互いに影響し合っています。長文問題の中には、一見語彙力がなければ解けないように思えても、実は読解力があれば解けるようになっている問題があるのです。中学入試で使われる文章の中には大学入試でも使われる文章も多々あります。たとえば、毛利衛さんの「宇宙から学ぶ ユニバソロジのすすめ」は、大学入試でも中学入試でも出題されました。私も数年前に模試で使用しました。18歳と12歳の語彙力には開きがあります。12歳の子が18歳と同じ語彙力を持つのは難しいです。それを承知で同じ文章を出題する意図は何でしょうか? 言葉がわからなくても文脈を正確に押さえて読み取り、思考できるかを見ているのです。(もちろん、文脈から意味を判断できない難しい言葉にはちゃんと注がつけられます。)
正確な読解力を身につけて文脈から意味を推測する習慣をつければ、不足する語彙力を補えるだけでなく、語彙力そのものも鍛えることができます。言葉をなかなか覚えられないなら、文脈から意味を推測する練習をしてみてください。辞書通りの意味だけでなく、文脈に即した意味や言葉の使い方も同時に学ぶことができ、かつ読解力の養成にもつながります。辞書引きが苦手・嫌いなお子さんには効果的です。