語彙力の強化は早め早めに

こんにちは。

大阪・神戸・京都の国語専門家庭教師住吉那巳枝です。

語彙力がたりないというのは、国語が苦手な生徒さんの多くに共通する課題です。語彙力不足は読解力の大きな妨げになります。論説文なら、キーワードの意味がわからなければ、その文章を正確に理解できません。物語文なら出てくる心情語・動作を表す語の意味がわからなければ心情理解は難しい。

「でも、語彙力不足というけれど、中学受験の文章は難しいからわからなくてもしかたないんじゃないの?」と思われるかもしれません。

それも一理あるかもしれません。しかし、作問者はこの学年でこの言葉は難しいなと判断した場合、語注を入れます。

その語注について感じていること。私は年間40~60本の模試を作成しています。小1の基本的なレベルのものから中3の最難関高校向けのものまで、この10年以上作成を続けています。また、高校教員向けの指導書作成や小論文の分析も行っていますが、特に模試作成を通じて感じているのは、かつて語注が不要とされていた語に注を入れることが非常に増えている、ということです。数年前なら語注を入れる指示は塾の先生や出版社から来なかった。校了して実施された模試にもない。でも、今回は塾の先生から「注を入れてほしい」という指示がくる。そんな経験をすることが増えています。また、模試の正答率を見ると、語句に関する正答率が低くなることが多くなっている。別にH学園のようにひねったかたちの問題ではありません。

また、かつてはいなかったのに3年連続、同じ言葉で意味を誤解して読み、解けなかった生徒に遭遇しています。

その言葉は「やりきれない」。

この言葉の意味、お子さんはわかるでしょうか? 3年間でこの言葉の意味を間違えてとらえていた小6生徒は5人。ほかに小4、小5でも数人いました。「やりきれない思い」「そんなのやりきれない」「やりきれなくて、思わず…」などの使い方で問題として問われていました。全員が「時間がなくて終わらない。全部できない」という意味だと思い込み、問題を解けませんでした。「やりきれない」は多義語です。多義語とは一つの言葉に様々な意味をもつ言葉で、もともと別の言葉であったものと同一の言葉であったものとがありますが、完全に区別できないものも多く、多義語としています。こうした言葉が苦手な子が多い。「やりきれない」という言葉は知っているけれど、そこに複数の意味があり、使い方が異なることを知らないのです。

言葉の意味がわからないと、どんなに文章の読み方を習得しても限界がきます。文章との相性が良かったから点が取れた・取れなかったという言葉を聞くことがあるかもしれません。これに対して否定的な人もいます。しかし、ここでの「文章の相性=わからない言葉の量」と置き換えるなら納得できます。読解で問われやすい心情語の半数以上の意味がわからなければ、その文章の心情理解はほぼ無理です。

ですから、言葉の学習は早いほうがいい。この言葉は難しいかな? と思っても、小1からどんどん教えていいと感じています。すでに持っている言葉と新たに学んだ言葉が関連づいてくると語彙力は飛躍的に向上します。とある最難関の私立小学校では、低学年のうちから中学の教科書で意味調べとして出てくるレベルの言葉を類語として示し、意味調べをさせています。表記もひらがなではなく漢字です。母語が確立してくるのは小3~4です。この時期までにたくさんの言葉を覚えて使えるようにすることはとても大切です。アーバン出版が出している「10歳までに覚えたい1000の言葉」というものがありますが、なぜ「10歳」なのか。それはこの年齢で母語が確立するからかもしれません。

家庭教師で指導する場合、語句の意味のフォローも最低限は行いますが時間的に難しいことが多いです。その場合は、ある程度読解の基本が身についたところで要約指導を利用して語彙力の強化を行うことがあります。とはいえ、これも家庭学習での継続が必要になります。

国語を苦手にしたくないなら、低学年・遅くとも中学年までに言葉の数を増やし、使えるようにすることは大切です。高学年になってからでも挽回できないわけではありませんが、ご家庭での学習にかかる負担はかなりのものになりかねないということは覚えておいていただきたいと思います。