言葉の刃物

こんにちは。

大阪・神戸・京都の国語専門家庭教師住吉那巳枝です。

名古屋の、中学受験生が亡くなった事件の初公判が21日にありましたね。

本当に胸が痛くなり、同じ年齢の生徒を、同じ中学受験生を教えている身としてはなんともいいようのない思いに襲われます。

 

刃物は向けるなんてことは、あってはならないのに。

でも、言葉という刃物についてはどうでしょう?

この仕事を20年以上もしていると、言葉の刃物で傷ついている生徒をたくさん見てきました。

塾で教えていたとき、家庭教師をする中で。

形のある刃物は目に見えます。明らかにわかります。でも、言葉の刃物のおそろしさは、放った本人と周りにはわからないところにあります。

言われた側から傷ついたと言われなければわからない。でも、ほとんどの場合、子どもはそんなことは言いません。言われたとしても、言った側は「そんなつもりで言ったんじゃない」と言って終わりにしてしまうことが多いでしょう。

「中学受験で親が勉強を見すぎると親子関係が破綻する」というのを聞いたことはないでしょうか? この破綻の原因は基本的に「言葉の刃物」だと思います。そしてこの「破綻」は受験期だけにとどまらない場合があります。大人になってもその子の人生に影響することがあるのです。

名古屋のニュースを見て、かつて教えていた生徒のことを思い出したのです。成績も優秀でIQもとても高い生徒でした。最難関中学の判定は常にA判定。でも、ほめらることがない。「百点取らないと怒られるから」「偏差値が70より下がったら怒られるから」。そんな言葉をよく聞いていました。面談でも「なんで百点じゃないんだ?」「なにしてるんだ?」と目の前で怒られている生徒を見たこともあります。その生徒はいつもおびえた目をしていて、成績面での心配はありませんでしたが、メンタル面でかなり不安な面がありました。もちろん第一志望校に合格しました。高校を卒業して大学入学後、当時の生徒たちと会う機会がありましたが、その生徒の親子関係はこじれたまま悪化していました。その後、その生徒は難関大学を退学しています。いまどうなっているのか私には知る由もありません。30代になるその生徒の人生はどうなっているのだろうかと、考えてしまいました。

言葉の刃物の力。これは、私自身も十分に気をつけなければいけない。授業の度に、振り返り、もしやってしまったと思ったらフォローするようにはしています。それでも十分ではないかもしれない。

今、20名ほどの生徒を指導していますが、同じ生徒はいません。みんなひとりひとり、個性があり、性格も感受性も違います。同じ言葉を言ってもある生徒には励みになり、ある生徒には刃物になることがあります。ほんとうに気をつけなければいけません。

刃物になるような言葉を使うより、なぜやらなければならないのかを体感して納得して動いた生徒のほうが確実に伸びますしね。「こわいから」「怒られるから」という強制力で勉強してきた生徒はなぜか直前期での失墜が多かったり第一志望校に受からなくなったりするのです。自分を否定される言葉を浴びてきた生徒は本当に伸び悩みます。

成績を伸ばさなければいけない家庭教師が自ら成績が伸びなくなる原因をばらまくことはしてはならない。ましてや傷つけてはいけない。改めて、気持ちを引き締めて指導していかねばと思いました。