基礎的読解力判定のリーディングスキルテスト(RST)

一昨日、国立情報学研究所の新井紀子教授が開発した基礎的読解力判定のリーディングスキルテスト(RST)の結果に関する記事が掲載されていました。

「教科書が読めない」子どもたち 教育現場から見えた深刻な実情〈AERA〉

記事の中で興味深い点がいくつかありましたので、挙げてみたいと思います。(「教科書が読めない」子どもたち 教育現場から見えた深刻な実情〈AERA〉4/14(土) の記事より)

・「今まで教科書は読めて当たり前で、その前提で授業を進めていた。教科書が読めていないという事実は、衝撃的」という新井教授の言葉

学校現場ではそうなのかもしれませんが、塾の先生や家庭教師の方々は、強く感じているのではないかと思います。一昨年まで私は公立小中生・高校生を塾でも指導していましたが、教科書に書かれていることを理解するのが難しい生徒はかなりの数に上ります。家庭教師をしていると、塾のテキストの解説、模試の解説も理解できない生徒はよく見ます。国語の家庭教師はその部分も理解できるようにしていかなければなりませんから、責任重大です。これが理解できないと、復習が自分でできないのですから…。そのため、模試で解説を作るときには毎回とても悩みます。ていねいに細かく説明すると先生方から「くどい!」と言われたりするのですが、実際指導していると「この解説にしないと偏差値50届かない子は絶対理解できない!」と思ったり、「でも、この量になってくると理解するのを放棄しだす子もいるな~」と思ったり、ほんとうに悩むのです。これは家庭教師をしていると痛感しますが、集団塾のみで指導していると気づかないこともあるかもしれません。

 

・「学力テストとの相関関係を調べたところ、学力の高い児童・生徒がRSTの点数も高いわけではなく、関連を示すことができなかったテストで高得点を取ってもRSTは低い」

これは、実は気づいている人も多いのではないかと思うのですが、どうなのでしょうか。学力高低と読解力が一致しないというのは、小学生から高校生まで指導していると強く感じます。私の見てきた限りですが、特に総合成績の優秀な小学校高学年から中学生は顕著な気がしています。そういう子からの「国語が足をひっぱってどうしたらいいかわかりません」という相談がとにかく多いのです。「英語も数学も理科も社会もトップクラス。でも国語は平均ぎりぎりぐらい」、中学受験生なら「理科と算数は得意、社会も取れるけれど国語だけが悪い」という相談をとてもよく受けています。読解力はすべての教科に影響を与えますが、算数や理科の場合はある程度パターンかして解けますから、読解力が弱くても問題ないことはあるのでしょう。つまり、国語だけが弱いというのは非常に危険だということでもあります。モデル問題の方向性のまま大学入試共通テストが導入されたら、国語だけが弱いで済んでいた生徒たちは、すべての教科で苦戦しかねません。

・「『感想主義』に偏りがちな小学校、指示語の抜き出しなど構造理解を問う中高の国語教育だけでは、本物の読解力は養われにくい」

全ての小中高がそうだというわけではなく、全体的な傾向はこういう感じですね。私立は授業内容もかなり工夫されていますから、当然あてはまらない学校もあります。ここに中学受験の意義があるように感じました。私は、小学校の感想主義も中高の指示語の抜き出しなど構造理解を問う教育も必要だと思います。しかし、バランスが悪い。偏りがち。そしていまひとつ何かが欠けている、不十分。そんな印象は受けます。RSTは「生活体験や知識を動員して、文章の意味を理解する『推論』、文章と、図形やグラフを比べて一致しているかどうか認識する『イメージ同定』、国語辞典的、あるいは数学的な定義と具体例を認識する『具定例同定』など、読解力を6分野に分け、その能力を問う」と記事にありますが、国立情報学研究所の「RSTとは」にある図を文章化すると以下のようになります。

①「文の構造を正しく把握する『係り受け解析』」

②「代名詞が何を指しているかを正しく認識する『照応解決』」

③「与えられた二文が同義がどうかを正しく判定する『同義文判定』」

④「既知の知識と新しく得られた知識から論理的に判断する『推論』」

⑤「文と非言語情報(図)を正しく対応づける『イメージ同定』」

⑥「辞書の定義を用いて新しい語彙とその用法を獲得できる『具体例同定(辞書)』」・「理数的な定義を理解しその用法を獲得できる『具体例同定(理数)』」

これら①~⑥の能力を見る問題が中学受験では出題されています。⑤の『イメージ同定』は私学ではあまりないですが、国公立一貫校での出題が多いですね。また、⑥の『具体例同定(理数)』が出題されることはほとんどありませんが、それ以外はしっかり問われています。最近は、「読解力・思考力をつけさせたいから中学受験をする」というご家庭も増えています。中学受験の目的が一昔前と比べてとても多様化しています。

「中学受験なんて不要!」と思いながらも読解力に不安があるようなら、中学受験を考えるというのもいいかもしれません。受験をしなくても、中学受験用の問題集や参考書は、学校準拠の問題集では養えない力を身につけるのに役に立つものがあります。

まあ、とはいえ、中学受験のために塾に通ってもやはり読解力がなかなかつかない子はいます。読解が苦手な子の場合は、一人一人の性格や生活体験、家庭環境、学習習慣、興味・関心を踏まえたうえでの適切な指導が必要です。このことを、指導する私たちは絶対に忘れてはならない。国語の家庭教師というのは、他教科にはない難しさに対応していかなければいけないのかもしれません。